ちくわの穴

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『水のマージナル』 感想

 片岡ともさんの書いたライトノベルということで購入。近所の書店を5件ほど梯子しても在庫を見つけることができなかったので電子書籍版にしました。

 本作を一言で表すと、「脱力系ライトノベル」ですかね。物語性を楽しむというよりかは、小心者チャンプとその愉快な仲間達とが送る日常を第三者目線で眺めて、笑ったりニヤニヤしたりするのが正しい楽しみ方のような気がします。

 しかし、それ故に読者を選ぶ作品のようです。純粋に血湧き肉躍る物語を楽しみたい人には不向きな作品だと思います。展開が非常にゆっくりなので。日常ー日常ー日常ー過去編ー日常ーシリアス…とこんな感じに、合間合間に日常描写を挟んでくるので、人によってはテンポが悪いと感じてしまうのも無理はないのかもしれません。

 しかし逆に、私のような、氏の独特な文体・言い回しが好きな方はこの作品を大いに楽しめたのではないかと思います。佳奈子の背伸ばし体操とか、きゅんきゅんとか、えいえーいとか。挙げれば切りがないですが、片岡氏らしい独特のノリが凝縮された作品で、ファンにとっては堪らない作品でした。なんというか、作者自身が楽しみながら執筆している様子が容易に想像できるんですよね。えいえーいとか、ノリノリで文章書いてないと生まれてこない発想な気がします。

 ただ、普段ゲームのシナリオを書くことに慣れている所為か、小説としては少し読み辛いと思える箇所がありました。例えば、唐突な場面チェンジ。一行も空けずに場面が入れ替わってる所ですね。ゲームだと背景や立ち絵が変わって視覚的に場面チェンジが分かるので、細かい背景描写が要らないんでしょうね。

 あとがきにも書いてありましたが、作者自身、この作品はシリアスではなくライトなノリを書きたかったそうです。確かに、随所で意図的に重いシリアスを避けているような印象は受けました。これはあとがきの引用ですが、

そりゃ、きゅんきゅんとか寝息立てられたら緊張感も消失します。

なんというか、この作品を象徴したような一言ですよね。

 小心者チャンプの一夏の少冒険、というには物語は肥大しすぎてしまったような気はします。佳奈子の能力についての説明も特にないし、ご都合主義というのも否めない感はあります。しかし前述の通り、作者はライトなノリをコンセプトにしていた訳で、その意味ではマージナルやハンドラーの設定はおまけに過ぎないのかもしれません。本作はあくまでも、ノリとどこか不思議な日常を楽しむ作品として設計されたのではないかと思います。危機的な状況下においても、どこか緊張感に欠けている。そんな本作には「脱力系ライトノベル」という表現が適切ではないかと思うのです。